高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

第一回三島由紀夫賞受賞作が新装版で再登場。

 わたしはここにこうして静かに座って本を読んでいる。ここはわたしの部屋で、およそ二万冊の本と茶色いオス猫が一匹いる。猫の名前は『365日のおかず百科』だ。

優雅で感傷的な日本野球』は私がはじめて読んだ高橋源一郎作品で(遅れてきた読者なのです)、この一文が高橋源一郎の文章とのファーストコンタクトでした。図書館で手に取って最初の一文を読み、思わずにやりとしたことを今でも憶えています(その後、購入しました)。そんなわけで、『ジョン・レノン対火星人』、『さようならギャングたち』とはまたちょっと違った思い入れがあったりします。自称高橋源一郎ファンの私ですが、「傑作」という表現を使うことにためらいを覚えないのは、ごく限られた数作品に対してだけです。そして、この『優雅で感傷的な日本野球』は、その「傑作」と表現することにためらいを覚えない作品のひとつなのです。
たとえ野球に興味がなく、野球の知識がなくても、この作品を楽しむのに何の問題もありません(実際、私もほとんど野球に興味がありません)。

新たに巻末に付された「新装版へのあとがき」は、いまだに高橋源一郎が「内輪の言葉」と批判されたことにわだかまりを感じているらしいことをうかがわせて、なかなか興味深い内容でした。

そういえば、一時期私の身近で、この作品に登場する「漢字をとばして平仮名だけを朗読する女」のまねをするのが流行ったことがあったなぁ。