稲生平太郎『アムネジア』

アムネジア

アムネジア

ジュブナイルホラーの傑作『アクアリウムの夜』の著者による新作長編。
第III部第2節までは「傑作!」と思って読んでいた。でも、それ以降、唐突に視点が切り替わってから結末に至るまでさっぱり理解できず、途方に暮れたまま読み終えた。つまらなかったわけじゃない。『アムネジア』を読み終えて、その途方に暮れた気分を引きずったまま続けて『アクアリウムの夜』の再読に取りかかったくらい作品には惹きつけられた。

 でも、いったい、どれとどれを繋いでいけば、かみのけ座になるのかわからない。熊や羊や双子ならともかく、髪の毛なんて、どんな星を繋いでもできあがるし、そもそも、かみのけ座なんてほんとうにあるんだろうか。それに、黒い眼に似た星雲というのもなんだか怪しい。ひょっとしたら騙されているのかもしれない。はやく家に帰りたくなったけれど、でも、自分の家がどこかわからない。(P.85)

この作品の読後感は、ちょうどこんな感じだ。意味があるのかないか、繋がるのか繋がらないのか判断不能なガジェットやエピソード。それらを繋げば、ひと続きの図柄が浮かび上がってくるかもしれない。そんな気にさせられる。でも、わからない。
本当に「かみのけ座」は存在しているのか?
たぶん、ある、というのが現時点での仮の結論。
スニーカー文庫版『アクアリウムの夜』で稲生平太郎を知り、それ以外、ほとんど作者について知らない私のような読者がわからない、ある「文脈」について明示せずに語られた物語。それがこの『アムネジア』なのではないか、という妄想を抱いている。

稲生平太郎」でGoogleで検索すると1番目に出てくるサイトですが、こちらに掲載されているインタビューや評論を読むと、いろいろと『アムネジア』を想起させる興味深い文章が散見される。
とりあえず、『何かが空を飛んでいる』を手に入れて読んでみたい。