片瀬陸『エヴァーロン』



「不死」をテーマにした中編3編を収録した作品集。タイトルの「エヴァーロン」という言葉は「ever(いつも)」+「lone(ただ一人)」を組み合わせた造語(?)らしい。

タイトルからもわかるとおり、M.ナイト・シャマラン監督『アンブレイカブル』を意識したと思われる作品。小学生のころ、遠足のバスが事故に遭い、クラスでただ1人生き残った少女。彼女は自分が「不死」であると確信し、それを証明しようとして父親を巻き込み死なせてしまう。それから7年後、ある高校の修学旅行に向かうバスがバスジャックされる。凶器を手にしたバスジャック犯は、バスに閉じこめられた生徒たちに向かって言う。「この中に不死身だっていう奴がいる。そいつを探している。だから、これからお前たちを一人ずつ殺して確認する」……しかし、これは「不死身の少女」が犯罪者を退治する話、ではない。基本的にはバス車内の閉鎖空間で繰り広げられる殺戮劇とそれに対する生徒たちの抵抗を軸にしたサスペンスになっている。ちょっとしたサプライズもあって、3作の中ではもっともエンターテインメント寄りの作品で、これが一番おもしろかった。

  • 「ロング・ロング・ライフ」

主人公である男女の一人称で交互に語られる恋愛小説(?)。物語の冒頭から中盤にかけては、2人が出会い、結婚するまでの特にこれといった事件も起こらない平凡な出来事が淡々と語られる。しかし、幸福な2人の生活に、突然、不幸が襲いかかる。女が事故に遭い、重体となって病院に運ばれたのだ。男は妻を亡くし、傷心の日々を過ごす。女はリハビリを経て、やがて回復する。というように、物語はそれぞれの一人称において分岐し、最後まで交わることがない。泣ける。これは中編ではなくボリュームのある長編にしたほうが良かったかも。

  • 「エンドレス・ワールド」

日本とよく似た、しかし、決して住人が年をとらない世界。そこで、ただ1人成長し、やがて年老いていく男を主人公とする物語。ちょっと高橋源一郎の「ペンギン村に陽は落ちて」を思わせる。しかし、読んだ印象が「ロング・ロング・ライフ」と重なる部分があって、バリエーションという意味ではちょっと物足りない。