松浦寿輝『あやめ 鰈 ひかがみ』

あやめ 鰈 ひかがみ
まずは未読の「あやめ」を読んだ。おもしろかった。雑誌掲載時に読んでいる「鰈」と「ひかがみ」も良かったから、(個人的に『巴』と『花腐し』はあまり好きではないので)単行本としては久しぶりの「あたり」だといえるかもしれない。
中学時代の友人である斐川との待ち合わせの場所へ向かう途中、木原は車に轢かれて死んでしまう。そのまま待ち合わせの場所に向かった木原だったが、待てども斐川はあらわれず、同じクラスだった美代子が雇われのママをやっていると斐川から電話で聞かされていた、かつて自宅のあった場所に建つ雑居ビルのスナックを訪れる。
以前に『巴』と『ペニス』を続けて読んだせいもあるのか、「現実と非現実が混淆する」という部分にだけ注目すれば松浦寿輝津原泰水の作風は似ているといえないこともない(ような気がする)ので、ついつい比較してしまうのだけれど、津原泰水の緻密な文章の紡ぎ方と比較すると、松浦寿輝の文章はひどくだらしない。以前はそのだらしなさに不満というか苛立ちを覚えたわけだけど、どういうわけか、今回(というか、「鰈」と「ひかがみ」もそうだった)はそのだらしなさがたいへん心地よかった。我ながら不思議ではある。
引き続き、既読の2篇を再読予定。
ここに古谷利裕氏による「群像」掲載時の「あやめ」評おいときますね。