高橋源一郎『文学なんかこわくない』

文学なんかこわくない (朝日文庫)
上記の高橋源一郎の日記を読んで、『文学なんかこわくない』に収録されている「文学の向う側I」「文学の向う側II」を読み直す。書影は文庫版だが、手元にあるのは四六判(ISBN:4022572981)なので、以下の引用のページ数も四六判に準じる。

「ねえ、きみ。そんなに政治というものがややこしく、信じられないものなら、きみは政治よりずっと文学に魅かれているのだから、どうして文学に留まろうとしないのだろう」
「それはたぶん」タカハシさんはこう言った。
「文学もまた政治と同じではないかと思うからです。それが言葉でできている以上、文学もまた正確になにかを表現することはできない。ぼくが文学を好きなのは、実は正確ではないから、なにかを表現しようとして結局表現することができないから、つまり『誤り得る』からのような気がします。文学に留まろうと、政治に進もうと、いやぼくたちが言葉を持つ限り、言葉を用いる限り、『誤る』ことが必然なら、問題はどのように『誤る』かだけではないでしょうか」
(P.212-213)

タカハシさんが言葉というものと恐れとともに付き合うようになって知ったたった一つのことは、言葉を使おうとする者は誰でもそれを「正しい」と思って使うようになるということだった。いや、言葉はそれを使う者に、その言葉を使うことを「正しい」と思わせるのである。
(P.218

そろそろ「文学の向う側III」を読みたい。予告されていた「答え」などないにしても。