佐藤亜紀『雲雀』

雲雀
「感覚」と呼ばれる超能力を備えた人物たちの戦いを描いた『天使』(ISBN:4163214100)と世界観、登場人物を共有する作品をまとめた短編集。「別冊文藝春秋」に発表した3篇に書き下ろし1篇を加えた4篇を収録。
登場人物、時代背景、および作品の時系列については、佐藤哲也による以下の解説ページが参考になる。

特に、「組織について」と題された一文がたいへんおもしろく、かつ的確に作品世界について説明しているので以下に引用する。

「感覚」の保持者たちは政府の諜報機関に採用されて現場へ送り込まれる。そして与えられた能力を互いに使って一般人にはわからないところで頭を開けたり頭の中を焼いたり視野を焼いたり欺瞞情報や頭痛を与えたりと陰湿な戦いを繰り広げる。とはいえ、ここで特徴的なのは登場人物の行動規範で、何かでもめ事が起こっても手打ちができなくなるような一線は誰も越えようとしない。どれほど敵対していても、必要ならば馴れ合うための努力は惜しまないのである。自滅もしない、皆殺しにもしない、そのかわり、みんなで生き残る、というきわめて健全な、あるいは官僚的な指向性が多くの登場人物の行動に現われていて、手打ちに向かって状況を動かしていくプロセスがストーリーの骨格を占めることも珍しくはない。