米澤穂信『さよなら妖精』
タイトルが良い。「妖精」というのは、もちろん、主人公たちの前に現れたユーゴスラヴィアからやってきた少女の比喩で、その少女との別れを示していると同時に、物語の終盤に至って主人公が抱いていたさまざまな「幻想」（＝「妖精」）がもろく崩れ去り、「現実」に直面することを示している……のかもしれない（ちなみに、物語は1991年の設定）。
「日常の謎」的な小エピソードを挟んだ異国の少女と日本の高校生たちとの交流を描き、やがて、冒頭にて予告されていた物語の中心となる謎があらわれる、という構成になっている。いわゆる「謎解き」ミステリの体裁で「青春小説」、というのはよくあるけど、そこに東欧の現代史がかかわってくるのがちょっと珍しい。
落ち着いた、というかいっそ素っ気ないほどの文体はたいへん好み。おもしろかった。
ユーゴスラビア - Wikipedia
