望月諒子『殺人者』ISBN:4087477134

読了。
id:helioterrorism:20040625#p2で、

第一章に入ったとたん、主人公が「小説を書く」などと言いはじめるのでちょっと萎えた。

と書いたんだけど、(私にとって)幸いなことに主人公が早々に挫折してくれたので、それ以降は妙な引っかかりを感じることもなかった。これはおもしろい。
長時間に渡る拷問の末、性器を切断された男性の死体が連続してホテルで発見される。フリージャーナリストの木部美智子は、被害者たちにかんする調査にのぞみ、事件の真相に迫る。
前作と共通する要素(ネタばれになるので略)は非常に多いのに、読んでいるときの印象がまったく異なるのが不思議といえば不思議。前作では曖昧で観念的なレトリックが多用されており、新たな情報の入手が明確な事態の進行につながらないという、どうにも苦手なタイプの物語構成だったのだけれど、今作では比較的文章が具体的で、物語の見通しがよい。
事件の真相の大半は「プロローグ」で読者に示される一方で、結末に至って「偽の真相」が不意に像を結ぶあたり、ちょっと意表をつかれた。
主人公やその周辺の脇役は前作を引き継いでいるけれど、物語としては完全に独立しているので、『神の手』よりは先にこちらを読むのがおすすめ。