庄司薫『ぼくの大好きな青髭』

シリーズ完結編。まだ半ばですが、これはおもしろい。というか、個人的にはちょっと落ち着いて読めない類いの小説です。
いや、それにしても、30歳をこえているのに、こういう小説を読んでダメージを受けるというのは我ながらどうなんだろうか。
かなり長いですが、以下、引用。

「あなたにくれぐれもよろしく、とお願いしたいのですが、誤解があるといけませんのでね……。つまり、あなたにどう伝わったか確信が持てないわけですが、彼がいろいろ言ったこと、研究するとかなんとかいうことは、言い換えれば要するに弥次馬ということになるんです。更に言い換えれば、ぼくたちは、そう、要するにダメな人間なんです。さっき彼が、現代における不適応と言ったけれど、ぼくたちは、おそらく基本型としては最も古めかしい不適応型でありながら、そのくせ、というかそのせいで、何事にもあっさりと適応してしまう日和見型とでもいうのでしょうか。で、結局のところ、あと二年もすれば大学を出て立派な社会人としてお仕事など始めて、いずれ健全な家庭など築くにちがいないんですね。つまりね、あれこれきいた風なことを言うけれど、結局のところ古めかしく道徳的で善良だから、人畜無害です。結局のところ身のほどは弁えているから冒険はしない。必然性なんか全くないにも拘らず妙にスノッブで、でもおかげで何事によらず大袈裟に騒ぎたてることなく静かに暮らしています。世の中の半数からは将来性ある好青年と思われ、半数からはヴァイタリティのないつまらないヤツと白眼視されるけど、二十歳越えた今では別に慌てるほどのこともなくなりました。最大の欠点は、たとえばこの店に集まっているような、おそらくは新しく来るべき感受性に情熱を賭けているような同世代を見ると、ついクリティックになってしまうところでしょうけれど、これも敵意というよりは羨望の余りだから大して悪気はありません……。」

P.76-77より。